胸の奥に潜んでいた衝動が、ついに口から零れてしまった。
「……触診、してもらえませんか」
言った途端、自分の頬が燃えるように熱くなるのを感じた。
それでも視線は逸らさなかった。彼の目が、まっすぐ私を射抜いている。
加藤さんは、ゆっくりと息を吸い込み、それから静かに頷いた。
「……分かりました。無理しなくていいですからね」
その声に、不思議と安心する。けれど同時に、心臓の鼓動は耳の奥で爆ぜるように大きく響いていた。
「そこの椅子に座って」
私は加藤さんの言う通り患者が座る丸椅子に腰掛けた、加藤さんは肘掛け椅子に座って私を見つめていた。
部屋の中の空気が急に濃くなったような気がした。
短パンに半袖シャツだけ。下着をつけていない自分の格好が、今さらながら恐ろしいほど心もとなく感じる。
「服の上から触診します。リラックスして、肩の力を抜いてください」
背筋を伸ばした私の目の前に優しく微笑んだ加藤さんがいる。
加藤さんの視線は徐々に私の胸の方へと移っていく…。
――加藤さんの大きくて温かい手で胸を触られる…。
そう思っただけで、首筋に生ぬるい熱がまとわりつく。
最初の一瞬、彼の手がそっと私の肩に触れた。
「緊張してるみたいですね。大丈夫、リラックスして」
私はゆっくりと深呼吸した。
加藤さんの手は肩からゆっくりと胸元へ移動する。
服の上から、やわやわと掌が広がり、私の胸の形を確かめるように包み込んだ。
「あ……」
思わず小さく声が漏れた。
温かい、大きな手。
力強いはずなのに、指先の動きは驚くほど優しくて……。
その緩やかな円を描くような触れ方だけで、胸の奥がきゅうっと縮む。
「ブラ…、着けてないんですね…」
「……はい……」
私はかすれた声で答えた。
加藤さんの指先が、胸のふくらみの上をすべり、外側から内側へ。
そのたび、私の吐息が白い部屋に淡く広がる。
「柔らかいですね……。痛みはないですか」
「な、ないです……」
問いかけに答えるだけなのに、声が震える。
胸の感覚が、徐々に敏感になっていく…。
「では、背中をこちらに向けてください。後ろからの方がわかりやすいので」
言われるままに向きを変えると、背中にぴたりと彼の体温が近づいた。
腕が私の脇をくぐり抜け、胸に回る。
両方の手が包み込むように胸を支えた瞬間、体の奥に火がついたみたいだった。
「んっ……」
息が詰まる。
頭の中が真っ白になる。
服の上から触られているだけ。
それだけなのに、乳首のあたりがじんわりと熱を帯びて、服とこすれるたびに電気が走った。
「……今日、お会いしてからずっと、三浦さんのことを考えていました」
耳もとで低い声が囁かれた。
名前を呼ばれるだけで、全身が震える。
「そ、そんな……」
恥ずかしくて言葉が最後まで続かない。
彼の指が、胸の頂をかすめたときだった。
「ひゃっ……」
小さな悲鳴のような声が勝手に洩れた。
乳首に触れられた瞬間、体がびくんと跳ねる。
「ここ……感じやすいですか」
「……っ、はい……」
耐えきれずに頷くと、加藤さんの息が首筋をかすめた。
背後から押し寄せる熱が、脊髄を伝って下へと降りていく。
服の上から、指先で乳首をゆっくり押し、軽く摘むように転がされる。
何度も、何度も。
そのたびに、腰の奥から力が抜けていった。
「やっ……あっ……」
声を抑えようとしても、甘い音がこぼれる。
「我慢しなくていいですよ」
「……っ」
優しい声が、かえって心をほどいていく。
どれくらいそうしていただろう。
気がつけば、自分の体が後ろに預けられていた。
胸の形をなぞる指は、乳首を中心に執拗に円を描く。
薄い布越しに、そこだけが濡れたみたいに敏感になっていく。
「三浦さん……服、少し開けますよ」
言葉と同時に、シャツのボタンが一つずつ外されていった。
胸元に冷たい空気が差し込む。
素肌に直接、彼の掌が触れる。
「んんっ……!」
肌と肌が重なった瞬間、さっきまでとは比べものにならない熱が走った。
指先が、乳首を避けるように周囲を撫でる。
やがて親指と人差し指がそっと摘まむ。
優しく、でも確実に、硬くなっていく感覚を確かめるみたいに。
「こんなに……敏感なんですね」
「……だめ……そんなふうに……」
唇から、抵抗にも似た声が漏れる。
でも、体は逃げない。
指の動きに合わせて、腰が自然に揺れてしまう。
乳首を摘まれて、くるくると転がされるたび、頭の中が真っ白になる。
「もっと……教えてください。どこが気持ちいいのか」
耳元で囁かれ、耐えきれず首を仰け反らせた。
乳首が引っ張られる。
その痛みと快感がひとつに溶け合って、全身に広がった。
「あぁ……そこ……だめ……っ」
声が震えた。
息が浅くなっていく。
加藤さんの指が優しく、それでいていやらしく、私を弄ぶ。
もう、恥ずかしさも何もない。
「……加藤さん」
かすれる声で呼ぶと、彼の手が一瞬だけ止まった。
「どうしました」
「……もっと……」
喉の奥で言葉を探す。
心臓が痛いほど打っている。
このまま壊れてもいいと思えるくらいに。
「気持ちよくなりたいです、……乳首……舐めて、ほしい……」
自分で言ってしまった。
その瞬間、全身が燃えるように熱くなった。
加藤さんの吐息が、耳の奥で深く沈む。
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