「隣人、加藤との秘戯」~中編 -1~

真奈美

 胸の奥に潜んでいた衝動が、ついに口から零れてしまった。

 「……触診、してもらえませんか」

 言った途端、自分の頬が燃えるように熱くなるのを感じた。
 それでも視線は逸らさなかった。彼の目が、まっすぐ私を射抜いている。
 加藤さんは、ゆっくりと息を吸い込み、それから静かに頷いた。

 「……分かりました。無理しなくていいですからね」

 その声に、不思議と安心する。けれど同時に、心臓の鼓動は耳の奥で爆ぜるように大きく響いていた。

 「そこの椅子に座って」

 私は加藤さんの言う通り患者が座る丸椅子に腰掛けた、加藤さんは肘掛け椅子に座って私を見つめていた。
 部屋の中の空気が急に濃くなったような気がした。
 短パンに半袖シャツだけ。下着をつけていない自分の格好が、今さらながら恐ろしいほど心もとなく感じる。

 「服の上から触診します。リラックスして、肩の力を抜いてください」

 背筋を伸ばした私の目の前に優しく微笑んだ加藤さんがいる。
 加藤さんの視線は徐々に私の胸の方へと移っていく…。

 ――加藤さんの大きくて温かい手で胸を触られる…。

 そう思っただけで、首筋に生ぬるい熱がまとわりつく。

 最初の一瞬、彼の手がそっと私の肩に触れた。

 「緊張してるみたいですね。大丈夫、リラックスして」

 私はゆっくりと深呼吸した。
 加藤さんの手は肩からゆっくりと胸元へ移動する。
 服の上から、やわやわと掌が広がり、私の胸の形を確かめるように包み込んだ。

 「あ……」

 思わず小さく声が漏れた。

 温かい、大きな手。
 力強いはずなのに、指先の動きは驚くほど優しくて……。
 その緩やかな円を描くような触れ方だけで、胸の奥がきゅうっと縮む。

 「ブラ…、着けてないんですね…」

 「……はい……」

 私はかすれた声で答えた。

 加藤さんの指先が、胸のふくらみの上をすべり、外側から内側へ。
 そのたび、私の吐息が白い部屋に淡く広がる。

 「柔らかいですね……。痛みはないですか」

 「な、ないです……」

 問いかけに答えるだけなのに、声が震える。
 胸の感覚が、徐々に敏感になっていく…。

 「では、背中をこちらに向けてください。後ろからの方がわかりやすいので」

 言われるままに向きを変えると、背中にぴたりと彼の体温が近づいた。
 腕が私の脇をくぐり抜け、胸に回る。
 両方の手が包み込むように胸を支えた瞬間、体の奥に火がついたみたいだった。

 「んっ……」

 息が詰まる。
 頭の中が真っ白になる。
 服の上から触られているだけ。
 それだけなのに、乳首のあたりがじんわりと熱を帯びて、服とこすれるたびに電気が走った。

 「……今日、お会いしてからずっと、三浦さんのことを考えていました」

 耳もとで低い声が囁かれた。
 名前を呼ばれるだけで、全身が震える。

 「そ、そんな……」

 恥ずかしくて言葉が最後まで続かない。
 彼の指が、胸の頂をかすめたときだった。

 「ひゃっ……」

 小さな悲鳴のような声が勝手に洩れた。
 乳首に触れられた瞬間、体がびくんと跳ねる。

 「ここ……感じやすいですか」

 「……っ、はい……」

 耐えきれずに頷くと、加藤さんの息が首筋をかすめた。
 背後から押し寄せる熱が、脊髄を伝って下へと降りていく。
 服の上から、指先で乳首をゆっくり押し、軽く摘むように転がされる。
 何度も、何度も。
 そのたびに、腰の奥から力が抜けていった。

 「やっ……あっ……」

 声を抑えようとしても、甘い音がこぼれる。

 「我慢しなくていいですよ」

 「……っ」

 優しい声が、かえって心をほどいていく。

 どれくらいそうしていただろう。
 気がつけば、自分の体が後ろに預けられていた。
 胸の形をなぞる指は、乳首を中心に執拗に円を描く。
 薄い布越しに、そこだけが濡れたみたいに敏感になっていく。

 「三浦さん……服、少し開けますよ」

 言葉と同時に、シャツのボタンが一つずつ外されていった。
 胸元に冷たい空気が差し込む。
 素肌に直接、彼の掌が触れる。

 「んんっ……!」

 肌と肌が重なった瞬間、さっきまでとは比べものにならない熱が走った。

 指先が、乳首を避けるように周囲を撫でる。
 やがて親指と人差し指がそっと摘まむ。
 優しく、でも確実に、硬くなっていく感覚を確かめるみたいに。

 「こんなに……敏感なんですね」

 「……だめ……そんなふうに……」

 唇から、抵抗にも似た声が漏れる。
 でも、体は逃げない。
 指の動きに合わせて、腰が自然に揺れてしまう。
 乳首を摘まれて、くるくると転がされるたび、頭の中が真っ白になる。

 「もっと……教えてください。どこが気持ちいいのか」

 耳元で囁かれ、耐えきれず首を仰け反らせた。
 乳首が引っ張られる。
 その痛みと快感がひとつに溶け合って、全身に広がった。

 「あぁ……そこ……だめ……っ」

 声が震えた。
 息が浅くなっていく。
 加藤さんの指が優しく、それでいていやらしく、私を弄ぶ。
 もう、恥ずかしさも何もない。

 「……加藤さん」

 かすれる声で呼ぶと、彼の手が一瞬だけ止まった。

 「どうしました」

 「……もっと……」

 喉の奥で言葉を探す。
 心臓が痛いほど打っている。
 このまま壊れてもいいと思えるくらいに。

 「気持ちよくなりたいです、……乳首……舐めて、ほしい……」

 自分で言ってしまった。
 その瞬間、全身が燃えるように熱くなった。
 加藤さんの吐息が、耳の奥で深く沈む。

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